この記事の要点・目次
  • 福井の眼鏡づくりは1905年、現在の福井市生野町で始まりました。福井市と鯖江市を中心に、部品や加工を担う企業が集まる産地へ育っています。
  • 金属の部品を成形して接合する方法と、樹脂の板を削る方法では工程が異なります。形ができた後にも、研磨や表面処理、調整が続きます。
  • 専門企業による分業のほか、自社工場で一貫生産する例もあります。素材や部品のつなぎ方を見ると、企業ごとの仕事の違いが分かります。

眼鏡を選ぶとき、まず目に入るのは形や色です。けれど、つるを開いたり、鼻にのせたりすると、その小さな道具がいくつもの部品でできていることに気づきます。

福井・鯖江の眼鏡づくりを支えているのは、部品を作り、つなぎ、磨き、組み上げる仕事です。素材によって加工法が変わり、工程ごとに専門の企業や職人が関わります。一本のフレームを手掛かりに、産地の成り立ちと、完成品からは見えにくい仕事をたどります。

始まりは、現在の福井市にある農村だった

「鯖江の眼鏡」と聞くと、鯖江市だけで生まれ育った産業を思い浮かべるかもしれません。実際には、福井市と鯖江市を中心に広がる産地です。

めがねミュージアムの歴史紹介によると、始まりは1905年。増永五左衛門が大阪から眼鏡職人を招き、現在の福井市生野町に当たる村で、農家の副業として眼鏡づくりを広めました。雪深い土地で、農業以外の仕事を生み出す取り組みでした。増永眼鏡の沿革でも、同じ年と場所を確認できます。

その後、専門の製造者が育ち、部品ごとに仕事を分ける生産へと広がっていきました。福井県眼鏡協会の企業案内には、完成したフレームだけでなく、部品、材料、表面処理、中間加工などを扱う企業が掲載されています。

この一覧から見えてくるのは、店頭で目にするブランドの背後にも、異なる仕事を持つ企業がいるということです。産地を知るには、「どの会社の眼鏡か」に加えて、「どんな仕事が集まっているのか」という見方が役立ちます。

小さなフレームにも、部品ごとの役割がある

耳にかける左右のつるは「テンプル」、レンズの周囲を支える枠は「リム」と呼ばれます。左右をつなぐ部分は「ブリッジ」。テンプルの開閉に関わる小さなつなぎ目には、丁番、またはヒンジという名前があります。鼻に当たるパッドも、フレームを支える部品です。

名前をすべて覚える必要はありません。正面から見える輪郭と、顔の横へ伸びる部分、折りたためる部分を分けて眺めるだけでも、一本の中に異なる役割があると分かります。

眼鏡を内側から見た、左右のレンズ枠と中央のブリッジ、二つの透明な鼻パッド
999.9(フォーナインズ)のチタンフレームを内側から見た写真(2017年)。部品の位置関係を知るための一例です。本文で紹介するS-935Tの写真ではありません。写真・画像:melvil / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用)

たとえば写真では、レンズの周囲の枠と、鼻パッドを支える細い部分が見えます。どこを一体で作り、どこで別の部品をつなぐのか。眼鏡の設計には、見た目の輪郭を決めることに加え、こうした構造を考える仕事があります。

同じ「金属の眼鏡」でも、部品の形や組み合わせは一様ではありません。鯖江市の技術紹介でも、金属を型で押して成形するプレス、線材を曲げる加工、切削、接合、表面処理など、異なる技術が紹介されています。

金属と樹脂では、形の作り方が変わる

金属製フレームの一例を見てみましょう。鯖江の眼鏡メーカーORIENSは、金型を用いて部品を成形し、余分な突起を取り除いてから、部品同士を接合する工程を紹介しています。その後も、研磨、めっきや塗装、各部品の取り付けへと作業が続きます。

つまり、眼鏡の形になった瞬間が完成ではありません。形を作る仕事、部品をつなぐ仕事、表面を整える仕事が、それぞれ残っています。磨かれた光沢も、材料を用意しただけで生まれるものではないのです。

樹脂製フレームには、板状の素材から削り出す作り方があります。金子眼鏡が紹介する自社工場の工程では、アセテートやセルロイドの板を加工し、レンズを入れる内側や溝、外側の輪郭を削ります。鼻パッドや丁番を取り付け、研磨や組み立て、調整を経て仕上げます。

見た目が似た枠でも、金属の部品を成形してつなぐ作り方と、樹脂の板を削る作り方では、必要な設備や作業が変わります。金属と樹脂を組み合わせた製品もあるため、素材名だけで工程を一つに決めることはできません。

ここで紹介したのは各社の製造例です。すべてのフレームが同じ順序、同じ加工法でできるわけではありません。商品説明の素材と構造を合わせて見ると、その一本にどんな工程が必要かを考えやすくなります。

分業と一貫生産、どちらにも仕事のつながりがある

福井県眼鏡協会は、産地の眼鏡づくりを、専門の工場や職人による分業として紹介しています。多いものでは200以上の工程があるとしていますが、この数字を、すべての製品に共通する工程数と捉える必要はありません。むしろ、一つひとつの工程が何を担うのかに目を向けたいところです。

企業と工場のやり取りを伝える例もあります。フォーナインズは、2022年に公開したS-935Tの製作紹介で、企画に合わせて鯖江の工場を選び、工場側の意見を受けて図面を改良し、試作を重ねたと説明しています。完成図を渡して終わるのではなく、作る側の知見が設計にも戻っていく関係です。

一方、金子眼鏡の自社工場「BACKSTAGE」は、プラスチックフレームの企画から加工、組み立て、調整までを同じ工場で行う体制を取っています。また同社は別の工場で、切削や研磨の一部をロボットが担う取り組みも紹介しています。

産地には、専門企業の間で仕事をつなぐ方法も、工程を一つの工場へ集める方法もあります。「鯖江製だからすべて手作業」「一人の職人が最初から最後まで作る」と決めつけず、企業ごとの作り方を読むと、ものづくりの姿が具体的になります。

眼鏡を見る目を、産地の仕事へ向けてみる

次に眼鏡を手に取るときは、正面のデザインに加え、つるの付け根、鼻パッド、表面の仕上げを見てみてください。どこに別の部品が付き、どんな丸みや光沢があるか。作る工程を少し知るだけで、小さな部分にも目が向くようになります。

実物から歴史をたどれる場所もあります。鯖江市のめがねミュージアム内にある「めがね博物館」では、100余年前の生産現場を紹介する展示や、江戸時代から昭和にかけての眼鏡の形の変遷を見ることができます。

屋上に赤い眼鏡の形を掲げた、鯖江市のめがねミュージアムが入る建物
鯖江市のめがねミュージアムが入る、めがね会館(2017年10月撮影)。産地の歴史や眼鏡づくりに触れられる施設です。写真・画像:Opqr / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用)

展示を見るなら、古い眼鏡と今の眼鏡で、材料や部品のつなぎ方がどう違うかを探してみるのも一つの楽しみ方です。訪問時の開館日や展示案内は、末尾に載せた施設の公式情報で確かめられます。

産地の価値は、有名な地名や工程の多さだけでは測れません。普段何気なく開閉しているつるや、顔に触れる小さな部品にも、形を考え、加工し、整える仕事があります。一本の眼鏡からその仕事をたどることが、福井・鯖江を知る入口になります。

出典・参考資料

  1. めがねミュージアム「めがね産地『福井・鯖江』の歴史」 ↗確認日:2026.09.23
  2. 増永眼鏡「企業情報」(1905年の沿革) ↗確認日:2026.09.23
  3. 福井県眼鏡協会 JAPAN GLASSES FACTORY「メーカー情報」 ↗確認日:2026.09.23
  4. ビジョンメガネ「メガネの各部位の名称」(リム・ブリッジ・テンプル・丁番) ↗確認日:2026.09.23
  5. 鯖江市「SABAE TECHNOLOGY」(プレス・曲げ・切削・接合・表面処理) ↗確認日:2026.09.23
  6. ORIENS「鯖江産・眼鏡の製造工程」 ↗確認日:2026.09.23
  7. 金子眼鏡「FACTORY」(自社工場と製造工程) ↗確認日:2026.09.23
  8. 福井県眼鏡協会 JAPAN GLASSES FACTORY「めがねの匠と技」 ↗確認日:2026.09.23
  9. フォーナインズ「フォーナインズ クオリティはこうして生まれる」(2022年、S-935Tの製作例) ↗確認日:2026.09.23
  10. めがねミュージアム「めがね作りの歴史と魅力に触れる『めがね博物館』」 ↗確認日:2026.09.23
  11. 写真のブランドについて:フォーナインズ「よくあるご質問」(製造地域) ↗確認日:2026.09.23
  12. カバー写真の原典:melvil「Four Nines Optical frame-11」 ↗確認日:2026.09.23
  13. カバー写真の利用条件:CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用) ↗確認日:2026.09.23

画像の出典・利用条件

  1. melvil / Wikimedia Commons:眼鏡を内側から見た、左右のレンズ枠と中央のブリッジ、二つの透明な鼻パッド ↗

    CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用)(ライセンス)。縮小・WebP変換。トリミングなし。確認日:2026.09.23

  2. Opqr / Wikimedia Commons:屋上に赤い眼鏡の形を掲げた、鯖江市のめがねミュージアムが入る建物 ↗

    CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用)(ライセンス)。縮小・WebP変換。トリミングなし。確認日:2026.09.23

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