この記事の要点・目次
  • Pandoraのベトナム新工場は、2024年からの再生金・銀の原料方針を引き継ぐ拠点です。生産能力は出荷実績と区別します。
  • 再生材の割合、金属の純度、製品のどの部分に使ったかは別の情報です。日本の金めっきメダルにも、この区別が当てはまります。
  • 再生貴金属を供給するには、回収・分析・精製に加え、原料を分ける管理と出所を裏付ける記録が必要です。

「再生金・銀100%でつくられたジュエリー」と聞くと、使わなくなった指輪を溶かして、別の指輪にしている姿を思い浮かべるかもしれません。実際の原料には、古い宝飾品だけでなく、工場の端材や電子機器などから回収した貴金属も含まれます。

再び製品にするには、回収した金属を必要な品質に整える技術と、その原料がどこから来たかを管理する仕組みが必要です。「再生材の割合」と「金属の純度」、さらに「製品のどの部分に使ったか」は、それぞれ違う情報です。

2026年10月1日に開業したPandoraのベトナム工場を起点に、日本の田中貴金属の取り組みと比べながら、再生金・銀が製品になるまでをたどります。

Pandoraの新工場は、再生金・銀を使う生産体制を広げる

デンマークのジュエリーブランド、Pandoraは2026年10月1日、ベトナム・ホーチミン市に新しい製造拠点を開きました。長く製造を担ってきたタイ以外では初の拠点で、開業式ではベトナムで最初の製品を制作したと発表しています。

投資額は1億5,000万米ドル、生産能力は年間最大6,000万点。同社は完全稼働時に7,000人の雇用を生むとしています。これらは設備の能力や将来の稼働体制を示す数字で、すでに年間6,000万点を出荷したという実績ではありません。

新工場では、使う金と銀を100%再生由来とし、電力も再生可能電力で賄う方針です。ただし、今回初めて再生金・銀へ切り替えたわけではありません。Pandoraは2023年12月に新しく採掘された金・銀の調達をやめ、2024年8月以降の製品制作で100%再生金・銀を使っていると説明しています。

今回の新しさは、その原料方針を引き継ぎながら、タイからベトナムへ製造拠点を広げたことです。原料の切り替えと、それを使う生産拠点の拡大を分けて見ると、今回の工場開業の意味が見えてきます。

ここで「100%」の対象になっているのは金と銀です。宝石、ほかの金属、包装まで含めた製品全体の再生材比率や、製造・輸送を通じた排出量がゼロであることを示す数字ではありません。

回収した金属は、分析と精製を経てもう一度材料になる

田中貴金属が公開する回収工程を見ると、金の原料は使わなくなったジュエリーに限りません。電子機器のスクラップや、工場で金めっきなどに使った液体からも貴金属を回収しています。製品の外からは見えにくい金属も、ものづくりの工程をたどると回収の対象になります。

筐体の中に電子基板が残る使用済みの電子機器
基板を含む電子廃棄物(2018年9月撮影)。回収対象の参考写真で、Pandoraや田中貴金属の調達・回収品を写したものではありません。写真・画像:Miriam Guterland / Wikimedia Commons / CC0 1.0

ただ、集めた物をまとめて溶かせば、そのまま新しい製品になるわけではありません。田中貴金属は、回収材に貴金属がどれだけ含まれ、どのような品質かを評価する分析技術が必要だと説明しています。回収材には貴金属以外の物質もあるため、分離し、不要な成分を取り除いて純度を高める「精製」を行います。

同社の金の工程紹介では、分離・精製を繰り返した後、粒状の材料や、型に流して固めた金属の塊にし、検査・計量します。古い製品を別の形へ変えるだけでなく、次の製品に使える材料として整え直す工程があるのです。

このため、原料が再生由来かどうかと、材料の純度は別の軸で考えます。純度は、材料の中に目的の金属がどれくらい含まれるか。再生材比率は、その金属などの原料がどれくらい回収材に由来するかという情報です。「100%再生金」は、完成したジュエリーが純金100%である、という意味にはなりません。

また、成分を調べて金だとわかっても、その測定だけで以前の持ち主や取引経路まで説明できるわけではありません。品質を確かめる分析と、出所をたどる記録の両方が必要になります。

日本のREシリーズは、再生材を分けて管理し、製品へ戻す

田中貴金属工業は2022年5月、貴金属の原料に100%リサイクル材を使う「REシリーズ」を発表しました。最初の製品は、同年4月から供給を始めためっき用の金化合物「PGC-RE」です。これは、最近の海外工場の開業とは別に、日本で続いてきた材料供給の取り組みです。

田中貴金属が2023年に公開した担当者インタビューでは、従来の回収・精製の流れを生かしながら、REシリーズ専用の生産・管理ラインを設けたと説明しています。再生由来の材料を用意するだけでなく、ほかの原料と混ざらないよう管理して、顧客へ渡すところまでつなぐ考え方です。

身近な製品への応用として、同社は2026年2月、東京マラソン2026の表彰用金メダルに使う金めっき液へREシリーズを採用したと発表しました。この金メダルの素材は「純銀金めっき」。銀の本体に金の層を設ける構造で、発表が示す再生材の採用箇所は金めっき液です。メダル全体が再生金100%でできている、と読み替えると対象を取り違えます。

Pandoraと田中貴金属を比べると、同じ再生貴金属でも、供給の流れの中で担う役割が違います。

比べる観点 Pandoraの公開説明 田中貴金属の公開説明
主な立場 ジュエリーを設計・製造・販売するブランド 貴金属を回収・精製し、材料や製品を供給する企業
再生材を使う仕組み 精製業者から調達した再生金・銀を製品制作に使う 回収材を精製し、RE専用の生産・管理ラインで供給する
表示の対象の例 製品制作に使う金・銀の原料 RE製品の貴金属原料。メダルの例では金めっき液

この比較は、両社に取引関係があるという意味ではありません。また、同じ製品を同じ条件で製造した比較でもないため、回収率や環境負荷の優劣は判断できません。海外と日本の違いを一括りにするより、ブランドの調達と、材料を供給する側の管理を分けて見るほうが、仕組みを理解しやすくなります。

「100%」の前後にある、原料と対象範囲の説明を読む

Responsible Jewellery Council(RJC)が定めるChain of Custody(CoC)規格は、貴金属が供給網を移動するときの管理と記録を扱う、任意の業界規格です。2024年版では、再生原料を消費者へ渡る前の材料、使用後の製品、廃棄物由来などに分け、供給者の確認や、原料の種類・割合の説明を裏付ける記録を求めています。

つまり「再生」という一語の中にも、製造中に生じた端材を戻す場合と、使用済み製品から回収する場合があります。どちらも資源を使い続ける方法ですが、何を回収したかを知るには、割合だけでなく原料区分の説明も読む必要があります。

Pandoraは2024年の発表で、再生金・銀への切り替えにあたり、RJCのCoC規格に沿って40を超える拠点を監査したと説明しました。こうした管理は、材料を加工する手仕事とは別のところでも製品を支えています。

火を使う作業台で貴金属を加工する職人
インド・コーラムでの貴金属加工(2020年12月5日撮影)。加工の仕事を示す参考写真で、原料の再生割合や認証を示すものではありません。本稿の企業の工場とは別の現場です。写真・画像:Fotokannan / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

商品説明を読むときは、次の3点をそろえると意味を取り違えにくくなります。

  • 再生材の割合は、どの金属・どの部品を対象にしているか。
  • 使用済み製品、製造端材など、原料の種類と管理方法が説明されているか。
  • 純度や素材、表面のめっきなど、完成品としての仕様は何か。

環境負荷の削減率が示されている場合も、原料の生産だけの比較か、加工や輸送まで含むのかで数字の意味は変わります。本記事では、両社の製品について同じ条件の排出量を比較したわけではありません。

新工場のニュースから見えるのは、再生材の利用を広げるには、回収・精製の技術に加え、材料を分けて管理する仕事と、説明を裏付ける記録が欠かせないことです。ジュエリーの輝きだけではわからないその過程を知ると、「再生金・銀100%」の表示を、対象と根拠のある情報として読み解けます。

出典・参考資料

  1. Pandora「ベトナム新製造拠点の開業」(2026年10月1日) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  2. Pandora「再生金・銀100%への製造切り替え」(2024年9月23日) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  3. Pandora「Recycled metals」調達・製造・販売の移行時点 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  4. 田中貴金属「限りある貴金属を未来へつなぐ」分析と回収 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  5. TANAKA Elements「Circular economy of precious metals realized by the RE Series」(2023年2月15日) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  6. 田中貴金属工業「REシリーズ」発表(2022年5月25日) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  7. 田中貴金属「東京マラソン2026表彰メダル」発表(2026年2月10日、1〜2ページ) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  8. Responsible Jewellery Council「CoC Standard 2024」第6項・第10項 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  9. 田中貴金属「知ってる?金の回収サイクル」回収・精製・検査 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  10. カバー写真:Mauro Cateb「Metals for jewellery」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05
  11. カバー写真の利用条件:CC BY-SA 3.0(派生画像も同条件) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.05

画像の出典・利用条件

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カバー画像

銀・銅・真鍮などのジュエリー材料。写真:Mauro Cateb / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)。

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  1. Miriam Guterland / Wikimedia Commons:筐体の中に電子基板が残る使用済みの電子機器 ↗(新しいタブで開く)

    CC0 1.0(ライセンス(新しいタブで開く))。原本保存。配信時に縮小・形式変換。トリミングなし。。確認日:2026.10.05

  2. Fotokannan / Wikimedia Commons:火を使う作業台で貴金属を加工する職人 ↗(新しいタブで開く)

    CC BY-SA 4.0(ライセンス(新しいタブで開く))。原本保存。配信時に縮小・形式変換。トリミングなし。派生画像もCC BY-SA 4.0。確認日:2026.10.05

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