この記事の要点・目次
- GMの「100%」は正極活物質のニッケル・コバルト・マンガンの再生由来比率です。
- 金属の回収から正極材、セル、新車まで、品質を確認して次の工程へ渡す必要があります。
- 日本の新プラントは発表時点で試運転中。処理能力と実績、回収量と電池の種類を分けて読みます。
使い終わった電気自動車(EV)の電池から金属を取り出し、新しい車の電池へ戻す。米ゼネラル・モーターズ(GM)は2026年9月22日、この循環を車両生産までつないだ実証を発表しました。
発表の「100%再生」という数字が指すのは、正極材に使うニッケル、コバルト、マンガンです。電池を丸ごと100%再生できた、という意味ではありません。日本でも同じ月、住友金属鉱山が電池リサイクルプラントの竣工を発表しています。二つの取り組みを比べると、金属を集める仕事と、再び電池に使える材料を作る仕事のつながりが見えてきます。
「100%」は、電池全体を指していない
GMによると、今回の実証では使用済みのGM製EV電池80基を回収しました。その材料も含む再生原料から、新しい正極活物質を12トン超製造したと説明しています。正極活物質とは、電池の正極で充放電を担う材料です。これに含まれるニッケル、コバルト、マンガンの全量を再生由来にした、というのが今回の「100%」です。

電池には正極以外にも、負極、電解液、セパレーターと呼ばれる隔膜があり、車に載せる電池パックには容器なども必要です。三つの金属の比率から、そうした部材まで含めた再生率は求められません。リチウムについても、この「100%」の対象には挙げられていません。
また、再生由来の材料をどれだけ使ったかという比率と、古い電池に含まれる金属をどれだけ取り出せたかという回収率は別です。たとえば回収工程で一部を失っても、取り出した再生金属だけで新しい材料を作れば、その金属の再生由来比率は100%になり得ます。これは数字の読み方を示す仮例で、GMの回収率を推定したものではありません。
この実証で新しいのは、回収した材料が粉末のまま保管されるところで終わらず、新しい電池と車両に組み込まれたことです。GMは9月中に、この再生金属を使った電池を載せた車両が生産ラインから出たとしています。ただし、発表はパイロット、つまり本格的な拡大に向けた実証です。GMの全車種・全生産で再生材料へ切り替わったわけではありません。
回収した粉を、そのまま新しい電池には入れられない
電池は、何種類もの材料が組み合わさった製品です。分解し、破砕や選別などの処理を経て得られる、金属を含む濃縮物が「ブラックマス」です。名前のとおり黒い粉状の中間原料ですが、新しい電池の材料として完成した状態ではありません。
実証に参加したCirba Solutionsの発表では、使用済み電池の材料を同社のオハイオ州の施設でブラックマスに加工し、提携先とさらに精製して正極活物質へ戻しました。その後、GMとLG Energy Solutionの合弁会社Ultium Cellsが電池セルを製造。GMのFactory ZEROとSpring Hillの拠点で、車両用のモジュールやパックに組み立てています。

セルは電池の基本単位です。それをまとめてモジュールやパックにしていくため、金属の回収に成功しても、それだけで車に載せられるとは限りません。正極材に戻し、電池として必要な性能や安全性を確認し、製造工程に受け渡す必要があります。
CirbaとGMは、再生材料にも新規原料と同じ基準を求めたと説明しています。「再生品だから品質を下げてもよい」という仕組みではありません。ただし、今回確認した公開発表には、試験条件や寿命データの全容までは示されていません。性能の同等性は、あくまでGMなど当事者の説明です。費用やCO2排出量がどれだけ下がったかも、今回の資料だけでは判定できません。
回収業者、精製・材料メーカー、セルメーカー、自動車メーカーが、次の工程で使える品質を渡していく。この接続が、電池から電池への水平リサイクルを成り立たせます。単に「リサイクル工場ができた」という発表を読むときも、何を出荷し、誰が次に使うかまで見ると、製品への戻り道を確かめられます。
日本は、製錬所と材料工場をつないで戻す
日本側の具体例が、住友金属鉱山の東予工場とニッケル工場に建設された電池リサイクルプラントです。9月11日に竣工記念式典を開き、14日に発表しました。原料処理能力は電池セル換算で年間約1万トン。発表時点では試運転中です。
同社の説明では、ブラックマスを受け入れ、東予工場の乾式工程とニッケル工場の湿式工程、関東電化工業のリチウム回収工程を組み合わせます。乾式は高温の炉で、湿式は水溶液の中で化学反応を使い、目的の金属を分離・回収する方法です。リチウムは、乾式工程で分かれるスラグと呼ばれる副産物から回収する別経路へ進みます。性質の違う金属や不純物に対応するため、複数の方法をつないでいます。

回収したニッケルとコバルトは、高純度の混合液として磯浦工場に運び、正極材の原料に使うとしています。廃電池から金属を取り出す製錬の仕事と、電池メーカーに材料を供給する仕事を、自社の既存拠点につなぐ形です。
同社は以前から電池由来の銅・ニッケルの再資源化に取り組んでおり、今回が日本で電池リサイクルを考え始めた瞬間ではありません。一方、米GMは自動車メーカーを起点に、回収から新車までの実証を報告しました。比べられるのは、材料が次の工程に渡る仕組みです。国全体の技術力や普及率の順位を、この二例で決めることはできません。
量の比較にも注意が必要です。日本の「年間約1万トン」は電池セルに換算した原料の処理能力、米国の「12トン超」は実証で作った正極活物質の量です。入口と出口が違い、期間も違います。二つを割って規模の優劣を出すことはできません。竣工・試運転と、新車への搭載という到達段階も分けて読む必要があります。
広げるには、戻ってくる電池の量と種類が鍵になる
回収設備の能力を大きくしても、原料となる電池が同じ速さで集まるとは限りません。国際エネルギー機関(IEA)の『Global EV Outlook 2026』は、現在の電池リサイクルでは、製造時に出る端材などが主な原料だと説明しています。
EVが増えると、新しい電池を作る工程からは端材が出ます。しかし、車に載せた電池の多くは長く使われます。販売が増えた年に、同じ量の使用済み電池が回収へ戻るわけではありません。IEAは、近年導入された電池の多くが2030年代半ばまで、あるいはそれ以上使われるとみています。これは見通しであり、個別製品の寿命保証ではありません。

さらに、電池の種類で回収する金属も変わります。今回のGMの実証ではニッケル、コバルト、マンガンが中心ですが、ニッケルやコバルトを使わないリン酸鉄リチウム(LFP)という別の正極材料も広がっています。IEAは、こうした材料構成の変化が、回収金属の価値に依存するリサイクル事業の採算を左右すると指摘しています。一つの電池で成立した採算や工程を、すべての電池へそのまま広げることはできません。
これらを踏まえると、日米の取り組みを広げる条件は、工場の設備だけではありません。どの電池を、いつ、どれだけ集められるか。そして、回収した材料を使う先があるか。新しい車の電池へ戻るまでを一続きで考える必要があります。
製品や企業の説明で「再生率100%」を見たら、まず何の100%かを確かめる。工場の大きな数字を見たら、処理能力か実績かを分ける。そのうえで、回収後の材料が何に使われるかを追う。この三つを確認すると、循環の技術がどこまで実際の製品につながったのかを、数字の大きさに頼らず読み取れます。
出典・参考資料
- GM:再生金属を新しいEV電池へ戻す実証(2026年9月22日) ↗確認日:2026.09.28
- Cirba Solutions:電池リサイクル実証の発表(2026年9月22日) ↗確認日:2026.09.28
- 住友金属鉱山:電池リサイクルプラント竣工の発表(2026年9月14日、PDF) ↗確認日:2026.09.28
- 住友金属鉱山:リチウムイオン二次電池リサイクル ↗確認日:2026.09.28
- IEA:Global EV Outlook 2026、Electric vehicle batteries ↗確認日:2026.09.28
- カバー写真:Mariordo / Wikimedia Commons(日産リーフの電池パック、2011年) ↗確認日:2026.09.28
- カバー写真の利用条件:CC BY-SA 3.0 ↗確認日:2026.09.28
画像の出典・利用条件
- ものづくりジャーナル編集部:電池全体の中の正極活物質に含まれるニッケル、コバルト、マンガンが100%再生由来であることを示す図 ↗
編集部制作図版。公開資料の事実関係から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.28
- ものづくりジャーナル編集部:使用済み電池からブラックマス、精製と正極材製造、セルと車両への搭載へ進む工程図 ↗
編集部制作図版。公開資料の事実関係から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.28
- ものづくりジャーナル編集部:日本の新プラントで、ニッケルとコバルトは正極材原料へ、リチウムは別の回収工程へつながる概念図 ↗
編集部制作図版。公開資料の事実関係から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.28
- ものづくりジャーナル編集部:製造端材は製造後に回収へ進み、車載電池は使用期間を経て回収へ戻る時間差の概念図 ↗
編集部制作図版。公開資料の事実関係から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.28



