この記事の要点・目次
- 入れ替わったのは2025年の年間導入台数の順位で、技術力や稼働中の総数の順位ではありません。
- 日本の統計では国内出荷が減る一方で輸出が増加。導入する国と供給する国を分けて読みます。
- 食品の箱詰めを例にすると、アームだけでなくハンドや前後工程、保守を含む仕事が見えてきます。
産業用ロボットを新たに導入する市場の大きさで、米国が日本を上回りました。国際ロボット連盟(IFR)が2026年9月24日に発表した、2025年の統計です。中国に次ぐ世界2位が米国、3位が日本となりました。
変わったのは、1年間に新しく導入した台数の順位です。ロボットを作る技術の優劣や、工場にあるロボットの総数を示す順位ではありません。日米の統計を分けて読むと、日本の国内需要が弱い一方で輸出は伸び、米国では食品などへ導入が広がる姿が見えます。身近なお菓子の箱詰めを手がかりに、この変化と工場の仕事のつながりを考えます。
日米の順位が逆転したのは、年間の導入台数
IFRの米国向け発表資料では、2025年の導入は米国が3万8,400台、日本が3万6,200台。中国は35万4,200台です。いずれも同じ資料の公表値で、丸めを含みます。米国の伸びと日本の減少が重なって順位が変わったのであり、米国だけが一方向に伸び続けているという話ではありません。IFRの全体発表では、米国は前年比12%増、日本は19%減でした。

もう一つ、分けたい数字があります。IFRが同日に示した世界全体の年間導入は60万3,000台、年末時点の稼働台数の推計は507万9,000台でした。前者はその年に入ってきた需要、後者は以前から使われているロボットも含む蓄積です。年間導入の減少だけで、工場にあるロボットも同じ割合で減ったとは言えません。
ここでいう産業用ロボットは、人型の機械だけではありません。IFRは、動作を書き換えられ、複数の用途に使え、3軸以上を制御する産業用の機構を定義の基礎にしています。工場で部品を運んだり、つかんで配置したりするロボットアームも含まれます。今回の数字を、人型AIロボットの普及台数として読むのは誤りです。
国全体の台数は工業の規模にも左右されます。工場の自動化の度合いを見るなら、IFRが別に示す「製造業の従業員1万人当たりのロボット台数」なども必要です。ただし、それも製品の品質や、働く人の負担を直接測る指標ではありません。
日本では国内出荷が減り、輸出が増えた
日本側の動きを確かめると、「日本のロボット産業が一様に縮んだ」とは説明できません。
日本ロボット工業会が2026年6月1日に公表した2025年の年間統計では、国内出荷は3万7,816台で前年比18.3%減。一方、輸出は17万3,323台で28.2%増でした。国内の自動車向け、電気機械向けの出荷はともに減っています。国内需要の弱さと、海外へ供給する仕事の増加が同時に起きたわけです。

この統計は、工業会の会員と非会員の調査対象企業によるマニピュレータ・ロボットの出荷実績で、サービスロボットを除きます。IFRの国際比較とは集計範囲が異なるため、3万7,816台と先ほどの3万6,200台を同じ数字として扱ったり、差をそのまま輸入台数と考えたりはできません。
IFRの米国向け資料は、米国で使われるロボットの大半が日本や欧州から輸入されると説明しています。導入が増える場所と、その装置を供給する場所は重なりません。日本企業にとって、米国の需要増は競争の話だけでなく、供給先の変化として見る必要もあります。ただし、日本の輸出増のすべてが米国向けだったことを、この統計は示していません。
米国の食品向け需要を、日本の箱詰めと比べる
米国では、どの仕事へロボットが入ったのでしょうか。IFRの9月24日付の米国向け資料では、最大の導入先である自動車産業は1万3,500台で前年比1%減。一方、食品・飲料産業は2,900台で30%増でした。規模は自動車より小さくても、需要の増え方は異なります。
この数字だけでは、どの食品工場で何を自動化したかまではわかりません。そこで、用途を具体的に考えるため、日本の食品箱詰め装置の開発例を見ます。
エプソンが公開する4社共同の取り組みは、惣菜を盛り付けた後、包装済みの商品を箱へ詰める仕事に着目しています。2023年11月に開発を始め、2024年6月に展示したものです。ロボットアームに加え、SMCのハンド、エヌアイシ・オートテックの架台、フレアオリジナルの装置設計を組み合わせました。

ハンドは、アームの先で実際に商品をつかむ部分です。移動する腕が同じでも、硬い部品と柔らかい食品では、つかみ方を変える必要があります。この開発例でも、食品に合わせたハンドの選択や、導入前の検証を支援する構成が示されています。
注目したいのは、完成したロボットを一台売るだけでなく、工程で使える装置と支援をまとめていることです。個々の工場が毎回ゼロから設計を始める負担を小さくしようとする発想が読み取れます。ただし、資料は開発と今後の現場検証を説明するものです。広く普及した実績や、すべての食品で同じ成果が出ることを証明してはいません。
米国の食品向け導入の増加と、この日本の装置の開発は、時期も観察している対象も違います。台数や導入率の優劣は比較できません。共通の軸は「食品を作る周辺の仕事を、どう自動化しやすくするか」です。
「1台」の外側に、導入を支える仕事がある
たとえば、包装済みのお菓子を箱へ移す工程を考えます。以下は特定工場の実績ではなく、導入条件を考えるための仮例です。
アームが商品を正確に移せても、前の工程から商品が不規則な向きで届けば、つかむための条件が変わります。包装を傷めずに持てるか、商品がずれた場合にも取り直せるか、といった確認も必要になります。箱が満杯になった後に運び出せなければ、次の商品も入れられません。箱詰めだけを速くしても、前後の供給と搬出が追いつかなければ、ライン全体の生産量は増えない場合があります。

また、別の商品に切り替える段取り、清掃、故障時の復旧も残ります。「人を何人減らせるか」の前に、どの作業が減り、どの調整や管理が必要になるかを切り分けると、導入後の働き方を具体的に考えられます。工程の組み合わせは、設備担当者だけでなく、製造や品質の担当者の知識にも関わる問いです。
米国立標準技術研究所(NIST)の2021年の製造業向け解説も、工具や付属機器、設備へ組み込む複雑さを含めて導入を考えるよう促しています。これは今回の統計より前からある課題です。新しいAIや操作画面が登場しても、目の前の製品と前後工程に合わせる仕事まで消えるわけではありません。
日本の箱詰め装置で複数社が分担していたのも、アーム、ハンド、架台、装置設計という異なる役割でした。こうした設備を組み合わせ、動く工程に仕上げる仕事を担うのが、システムインテグレータ(SIer)です。ロボット市場の変化は、本体メーカーだけでなく、周辺機器や工程設計、保守に関わる人にとっても読む意味があります。
次の統計では、何を確かめるか
今回確認できる変化は、2025年の年間導入で日米の順位が入れ替わり、需要の動きが国や業種で異なったことです。これだけで日本全体の自動化が遅れた、米国の工場が一斉に無人化した、とは言えません。
IFRは今後の需要を支える背景として、人手不足や生産拠点の再配置などを挙げています。ただし、将来の見通しと、2025年に実際に集計した台数は別です。今回の増加の何割が政策やAIによるものかまで、この記事で確認した資料から切り分けることはできません。
次の発表では、国内の需要回復と輸出の動き、食品など自動車以外への広がりを分けて追うと、順位だけでは見えない変化がわかります。自分の仕事へ引き寄せるなら、「どのロボットを買うか」より先に、商品がどこから来て、何をされ、どこへ渡るかを見てみる。商品を替えるたびに止まる時間や、前後の工程を待つ時間も含めて、人が支えている部分を確かめることが、海外の大きな数字を身近な工程の話に変える入口になります。
出典・参考資料
- IFR「Five Million Robots now Operate in Factories Globally」(2026年9月24日) ↗確認日:2026.09.27
- IFR「U.S. now Second-Largest Robotics Market, Following China」(2026年9月24日、p.1) ↗確認日:2026.09.27
- IFR「President’s Report by Jane Heffner」(2026年9月24日) ↗確認日:2026.09.27
- IFR「Industrial Robots:Definition」 ↗確認日:2026.09.27
- IFR「World Robotics – Industrial Robots」統計の概要 ↗確認日:2026.09.27
- 日本ロボット工業会「2025年暦年【会員+非会員】受注・生産・出荷実績」(2026年6月1日) ↗確認日:2026.09.27
- エプソン「4社共創で実現した箱詰めパッケージソリューション」 ↗確認日:2026.09.27
- NIST、Andrew Peterson「Getting a Grip on What’s Next for Robotics in Manufacturing」(2021年1月21日) ↗確認日:2026.09.27
- カバー写真:NearEMPTiness「Battery assembly robot at Mercedes-Benz fair stand at IAA 2017 (01).jpg」 ↗確認日:2026.09.27
- カバー写真の利用条件:CC BY-SA 4.0 ↗確認日:2026.09.27
画像の出典・利用条件
- ものづくりジャーナル編集部:2025年の産業用ロボット年間導入台数は米国38,400台、日本36,200台。ゼロから同じ尺度で比較 ↗
編集部制作図版。一次資料の数値・説明から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.27
- ものづくりジャーナル編集部:日本ロボット工業会の2025年統計では、国内出荷37,816台と輸出173,323台で増減の方向が異なる ↗
編集部制作図版。一次資料の数値・説明から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.27
- ものづくりジャーナル編集部:包装済みの商品をロボットがつかみ、箱へ移す動きを示す概念図 ↗
編集部制作図版。一次資料の数値・説明から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.27
- ものづくりジャーナル編集部:商品供給、箱詰め、箱の搬出をつなぎ、段取り替えや清掃、保守を合わせて考える工程図 ↗
編集部制作図版。一次資料の数値・説明から独自に作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.27



