この記事の要点・目次
- 旭川家具は旭川と周辺の町の家具を指し、メーカーや製品で材料・作り方は異なります。
- 乾燥で材料を整え、木取りで部材を配分し、機械加工と手仕上げを組み合わせて形にします。
- 座面と木部では修理の内容が異なり、対応の可否は製品の状態や仕様ごとに確認します。
毎日座る木の椅子は、どんな仕事を経て私たちのもとへ届くのでしょうか。完成品では見えにくい材料の準備や作り手の判断を、北海道の旭川家具からたどってみます。
旭川家具は、一社のブランド名ではなく、旭川市と周辺の町で作られる家具の呼び名です。木を乾燥させ、部品を切り出し、加工・組立・塗装・仕上げを重ねて形にします。その過程では、材料を見極める人、設計する人、機械を使う人、手で仕上げる人の仕事がつながっています。ここでは木製の椅子を入口に、自治体やメーカーが公開する資料から、そのつながりを見ていきます。
旭川家具は、一社のブランドではない
旭川家具の産地は、旭川市だけでなく、東川町、東神楽町、当麻町にも広がっています。同じ「旭川家具」でも、メーカーや製品によって、使う材料も形も製造方法も異なります。
旭川市の広報誌によると、この地域では森林資源を背景に明治20年代から家具が作られてきました。木材が集まる土地に、家具を作る仕事が育ったのです。ただ、木が豊富なだけで現在の産地になったわけではありません。昭和30年代には市の木工芸指導所を中心に職人たちがデザインを学び、1990年には国際家具デザインフェア旭川(IFDA)が始まりました。材料を手に入れる力に、暮らしに合う形を考える力を加えてきた歴史があります。
ここで分けておきたいのが、家具を作る場所と、木が育った場所です。旭川家具では北海道産材の活用が進められていますが、すべての製品の木が北海道産という意味ではありません。例えば旭川のメーカー、コサインは、北海道産のサクラなどとともに、カナダ産のメープルや北米産のウォルナットを使うことを公表しています。
「旭川家具」という名前は産地を知る手がかりになり、樹種や木材の産地は個々の製品を知る手がかりになります。二つを分けて読むと、地域の仕事と材料の選択を、ひとまとめにせず理解できます。
椅子になる前に、木を家具の材料へ
森から運ばれてきた木は、そのまま椅子の部品になるわけではありません。丸太を板などに切り分ける「製材」と、水分を調整する「乾燥」が必要です。
実例として、旭川市が新庁舎の家具を地元の木で作った事業があります。市の記録では、江丹別地区の市有林で2022年4月に広葉樹を伐採し、同年7月に昭和木材の旭川工場で製材。その後、約1年間の乾燥を経て家具が作られました。完成品を見るだけではわかりにくい、材料を整える時間が記録されています。

なぜ乾燥が必要なのでしょうか。道総研の林産試験場は、乾燥していない木材が水分を放出すると収縮し、方向による収縮量の違いや、表面と内部で水分が減る時期のずれが、ねじれや曲がり、割れにつながると説明しています。最初に形を整えても、その後に材料が大きく変形すれば、部品を狙いどおりに組み合わせることが難しくなります。
乾燥には自然の環境を利用する方法と、装置で条件を調整する方法があります。上の事業の「約1年」は、あらゆる家具に必要な共通の期間ではありません。樹種、板の厚さ、初めの水分量、目標とする状態などに応じて条件を考えます。椅子の品質を支える仕事は、完成品の表面に見える加工より前から始まっています。
木取りで決まる、一枚の板の使い道
材料を切る仕事も、図面の寸法に合わせて機械で切断するだけではありません。板のどこから、どの部品を取るかを判断する「木取り」があります。
コサインが公開している木取り担当者のインタビューでは、一枚の板を各製品の部材へ振り分け、割れや節を避けながら無駄を少なくする仕事が紹介されています。元の材料のうち、製品に使える部分の割合を「歩留まり」と呼びます。しかし、ただ部品を詰め込めばよいわけではありません。必要な寸法に整えた後、板をはぎ合わせる場合には、木目や色のつながりを考える「目合わせ」も行っています。

例えば長い部材を取れない部分でも、短い部材なら使える可能性があります。逆に、寸法が収まる場所でも、その部品の仕上がりに適するかを見極める必要があります。図はこの配分の考え方を単純化したもので、特定の椅子の設計図ではありません。
同じ寸法に整えることと、ばらつきのある木を使い分けること。この両方を担うのが木取りの仕事です。材料の状態を見ずに「職人の手だからよい」と評価するより、どこを残し、どの部品へ回し、次の工程へ渡す前に何を確認しているかを見ると、判断の中身がわかります。
機械と手仕事で、デザインを形にする
部材を用意した後は、脚や背もたれなどを必要な形に加工し、部品を組み合わせて椅子の構造にします。さらに表面へ塗料を施す塗装や、仕上がりを整える仕事が続きます。カンディハウスの工場見学案内でも、椅子づくりを木取り、加工、組立、塗装、仕上げの順で紹介しています。

この流れを、すべて手作業で行うわけではありません。同社は、コンピューターで動きを制御する加工機を使い、速さや精度、品質の安定を図ると説明しています。一方、最後の仕上げでは、職人が手の感覚で細かなラインを確かめています。機械で加工の効率を上げることが、人の手を必要とする工程に時間をかけることにつながる、という考え方です。
機械と職人は、どちらか一方を選ぶ関係ではありません。機械を動かすプログラムを作ることにも技能が必要ですし、手で触れたときの感覚を整える仕事も残ります。ただし、これは同社が説明する製造の考え方であり、旭川家具の全メーカーが同じ設備や工程を持つという意味ではありません。
もう一つ大切なのが、デザインを実物にする試作です。旭川市の2017年の広報誌は、IFDAの最終審査用の試作の一部を地元メーカーが担い、企業の枠を超えて技術を持ち寄る様子を紹介しています。デザイン画の美しさに加え、人が使える構造として形にできるかを確かめる場でもあるのです。
木の調達から完成までの仕事が地域にあり、外からのアイデアも受け止める。椅子一脚の背景には、こうした材料、設計、製造のつながりがあります。
張り替えや修理まで、作り手の仕事は続く
使い続けるうちに、座面の布が擦り切れることもあれば、クッションがへたることもあります。見た目には「椅子が傷んだ」と感じても、傷んだ場所によって必要な仕事は違います。
カンディハウスの修理案内は、張地の修理・張り替え、クッションに使うウレタンの交換、木部の傷や塗装の修理などを分けています。張地とは表面を覆う布や革のこと。木の骨組みと座面を分けて見ると、相談する内容も具体的になります。

ただし、修理窓口があれば何でも直せるわけではありません。同社は、状態や仕様によって修理が難しい場合があり、安全性を確保できない場合には断ることもあるとしています。産地名や「長く使える」という言葉だけを、将来の修理の保証として受け取らないことが大切です。
椅子を選ぶときは、形や木目を眺めることに加え、使われている材料、表面の仕上げ、座面の構造、修理の相談先にも目を向けてみてください。材料表示で迷ったら、無垢材・突板・合板の違いも手がかりになります。
旭川家具を知る面白さは、完成した姿から、その手前と、その先の仕事まで見えることにあります。一枚の板をどう使うか、形をどう実現するか、傷んだときにどう対応するか。椅子を見る視点を少し広げると、産地に集まる技術を、暮らしの道具の中に見つけられます。
出典・参考資料
- 旭川家具工業協同組合「旭川家具とは」 ↗確認日:2026.09.26
- 旭川市「あさひばし 平成29年5月号 特集 ものづくりとデザイン」 ↗確認日:2026.09.26
- 旭川市「市産材で製作する旭川家具プロジェクト」 ↗確認日:2026.09.26
- 道総研 林産試験場 土橋英亮「木材の乾燥方法と乾燥装置について」 ↗確認日:2026.09.26
- コサイン「コサインのものづくり 木取り」 ↗確認日:2026.09.26
- コサイン「木について」 ↗確認日:2026.09.26
- カンディハウス「つくり手の努力と挑戦が、すぐれたデザインを形にする。」 ↗確認日:2026.09.26
- カンディハウス「CondeHouse Factory Tour & Workshop ―旭川家具 with ADW2026」 ↗確認日:2026.09.26
- カンディハウス「レストア(修理・張替え)」 ↗確認日:2026.09.26
- カバー写真:Nissy-KITAQ「Asahikawa furniture chair.jpg」 ↗確認日:2026.09.26
- カバー写真の利用条件:CC BY-SA 4.0 ↗確認日:2026.09.26
- カンディハウス「FAQ(修理できない場合について)」 ↗確認日:2026.09.26
画像の出典・利用条件
- ものづくりジャーナル編集部:旭川市の事業で、2022年の伐採と製材から約1年間の乾燥を経て家具製作へ進んだ流れ ↗
編集部制作図版。一次資料の説明をもとに独自構成で新規作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.26
- ものづくりジャーナル編集部:一枚の板の割れを避け、長い部材と短い部材を振り分ける木取りの考え方 ↗
編集部制作図版。一次資料の説明をもとに独自構成で新規作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.26
- ものづくりジャーナル編集部:カンディハウスの公開資料にある、木取りから加工、組立、塗装、仕上げへ進む工程 ↗
編集部制作図版。一次資料の説明をもとに独自構成で新規作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.26
- ものづくりジャーナル編集部:張り椅子の概念図で、表面の張地、内側のクッション、木の骨組みの位置を分けて示す ↗
編集部制作図版。一次資料の説明をもとに独自構成で新規作図。原図の転載・トレースなし。確認日:2026.09.26



