この記事の要点・目次
  • 2026年7~9月期の中小企業景況調査では、製造業の従業員数過不足DIは▲21.7。これは不足企業の割合ではありません。
  • 別の製造業11業種・従業員30人以上の企業調査では、回答企業の71.2%がものづくり人材を不足・やや不足と答えました。
  • 若手技能者などの採用と、働き続ける条件、教える人と時間の確保は、別々に点検する必要があります。

製造業の「人手不足」は、必要な人数を採れないことだけでは説明できません。どの仕事の人が足りないか、採用した人が働き続けられるか、経験を持つ人から次の担い手へ技能を渡せるかで、会社が直面する問題は変わります。2026年に公表された二つの企業調査を使い、数字の意味から順に確かめます。

不足の数字は、調査対象と聞き方をそろえて読む

中小企業基盤整備機構・中小企業庁の「中小企業景況調査」では、2026年7~9月期の製造業の従業員数過不足DIは▲21.7でした。DIは「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いた差です。マイナスは不足と答える企業の方が多いことを示しますが、▲21.7を「21.7%の企業が不足」と読み替えることはできません。この調査は2026年9月1日時点、全国の中小企業を対象とし、製造業の有効回答は4,347社です。

一方、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2025年末に調べた企業4,342社では、ものづくり人材を「不足」「やや不足」と答えた割合は計71.2%でした。こちらは製造業のうち11業種、従業員30人以上の企業を対象とする別の調査です。質問も前のDIとは異なります。71.2%と▲21.7を直接比べて、数カ月で不足が強まった、あるいは弱まったと判断することはできません。JILPTの有効回答率は21.7%で、この結果を全製造業の正確な不足率として使うことにも注意が必要です。

食品工場の製造ラインで二人の作業者が菓子を扱う様子
国内の食品工場での製造ライン(2007年撮影)。製造業には多様な工程がありますが、本文で紹介するJILPT調査の11業種に食品製造業は含まれません。写真・画像:House of Lim / Wikimedia Commons / CC BY 2.0

写真は2007年の国内の食品工場です。食品製造業は上記JILPT調査の11業種には含まれません。同じ「製造業」の風景でも、調査が見ている範囲を確かめてから数字を読む必要があります。

中小企業景況調査には、長崎県の金属製品企業が「半導体製造装置部品加工品」の生産で、熟練技能者がいないため生産能力が上がらず、生産技能者と総務管理者も不足していると記した自由回答があります。これは一社の匿名コメントで、業界全体の原因を証明するものではありません。ただ、受注があっても必要な役割がそろわなければ生産を増やしにくい、という具体的な制約は読み取れます。

採用では、何人よりも「どの役割が足りないか」を見る

JILPTの2025年末調査で、ものづくり人材が不足・やや不足と答えた3,092社に足りない人材を複数回答で尋ねると、若手の技能者が68.5%、若手の技術者が66.0%、中堅の班長・グループ長が49.1%でした。JILPTは、現場で製造を直接担う従業員を「技能者」と定義し、「技術者」と別に集計しています。さらに中堅の監督役が欠ければ、新人を迎えても指導や工程の調整を担う人が足りない可能性があります。数字は各役割の不足を挙げた企業の割合で、必要人数を足し合わせたものではありません。

同じ3,092社の人手不足への対応では、「中途採用の強化」69.0%が最も多く、「初任給や賃金等の処遇の引き上げ」50.5%、「新卒採用の強化」38.1%が続きます。厚生労働省の2026年版ものづくり白書も、この基礎調査から、従業員数が少ない企業ほど新卒をほぼ計画どおり採用できた割合が低く、小規模企業では中途採用、大規模企業では新卒採用を中心にする傾向を紹介しています。採用方法の違いは、業種や企業規模を無視した「製造業の正解」を一つにできないことを示します。

定着は、採用数とは別に確認する

人材の定着について、厚生労働省が示した2026年版ものづくり白書の集計では、「賃金水準の向上」に取り組む企業の割合が71.5%で最も高くなっています。これは取り組みの実施割合です。「賃上げによって71.5%の企業で離職が減った」という効果の数字ではありません。本稿で参照した資料からは、個別企業の離職率や賃上げ前後の変化までは確認できません。

採用数が増えても、退職や配置転換が重なれば必要な工程の人員が満たされるとは限りません。実際の会社では、職種ごとの退職と欠員期間、勤務条件を見なければ、なぜ現場が不足を感じるかは特定できません。賃金の取組と併せて、仕事の分担や育成に使える時間を確認する必要があります。上記の二つの調査は、個々の会社の離職原因を特定する資料ではありません。

技能継承では、教える人と学ぶ時間の両方が要る

JILPTの同じ調査では、技能継承を「重視」「やや重視」する企業が計91.1%でした。一方、会社として「うまくいっている」「ややうまくいっている」との自己評価は計33.3%です。重視することと、次の担い手が技能を身につけられていることは別です。技能継承がうまくいっていないと答えた企業に理由を複数回答で尋ねると、「若年従業員を十分に確保できていない」が62.5%、「時間的な余裕がない」が50.0%でした。これらは全回答企業の割合でも、原因の寄与率でもありません。

教育施設の作業場で作業者が工作機械に向かっている様子
ケニアの教育施設で工作機械に向かう作業者(2016年撮影)。技能を身につける現場の資料写真で、日本の調査対象企業や技能継承策の効果を示すものではありません。写真・画像:Shadychiri / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用)

JILPT調査で企業が継承を必要と考える内容には、「正確・精緻に作業できる技」66.3%、「トラブルや突発的なことが起きた時に対応できる力」65.2%、「最適な加減に作業の内容や状況を調整できるカン・コツ」52.6%があります。手順を覚えるだけでなく、異常時にどう判断するかまで伝えるには、実際の作業と振り返りの機会が要ります。写真はケニアの教育施設の資料写真で、日本企業の研修や調査結果を撮影したものではありません。

何らかの技能継承が必要と考える4,262社の取組では、高年齢の従業員に再雇用・勤務延長などで継続勤務してもらう回答が54.8%、技能を文書・マニュアル・デジタルで見える化する回答が31.2%でした。前者は教えられる人を職場に残す方法、後者は知識を共有しやすくする方法です。どちらも、それだけで技能継承が成功したことを示す数字ではありません。誰が、どの仕事を、いつ教えるかという時間の設計も問われます。

企業の発表や求人を読むときは、対策の対象を確かめる

人手不足への対策を比べるなら、「採用を増やした」だけで終わらず、どの役割に対し、どの段階の問題を扱っているかを確認すると整理しやすくなります。

確かめること 読み取れる範囲 その数字だけでは分からないこと
採用人数・募集職種 どの仕事の担い手を増やそうとしているか 入社後の定着、習熟、欠員期間
賃金・勤務条件の変更 企業が定着や採用の条件を変えたか 変更による離職率への効果
指導担当・訓練期間・技能記録 教える人と学ぶ時間を用意したか 必要な技能が実際に継承されたか

中小企業景況調査のDIは不足感の広がりを、JILPT調査は対象業種の企業が何の人材を足りないと考え、技能継承をどう評価しているかを示します。どちらか一つの値で個々の会社の事情は決められません。受注する製品と工程、必要な役割、採用後の働き方、教える体制をつなげて読むことが、人手不足の中身を見分ける手掛かりになります。

出典・参考資料

  1. 中小企業基盤整備機構・中小企業庁「第185回 中小企業景況調査(2026年7~9月期)」印刷p1・9・13 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  2. 労働政策研究・研修機構「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」2026年5月27日、印刷p2~7・16~17 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  3. 厚生労働省「2026年版ものづくり白書の閣議決定」第1部第2章第3節の概要、2026年5月29日 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  4. カバー写真原典:Nenad Stojković / Wikimedia Commons ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  5. カバー写真の利用条件:Creative Commons 表示 2.0 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  6. 本文写真原典:House of Lim / Wikimedia Commons「ライン」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  7. 本文写真の利用条件:Creative Commons 表示 2.0 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  8. 本文写真原典:Shadychiri / Wikimedia Commons「Lathe machinist」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11
  9. 本文写真の利用条件:Creative Commons 表示—継承 4.0 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.11

画像の出典・利用条件

以下は元画像の説明と利用条件です。配信用に縮小・形式変換を行い、一覧では表示枠に合わせて一部を切り取って表示しています。

カバー画像

窓枠製造の作業風景。写真:Nenad Stojković / Wikimedia Commons、CC BY 2.0。原典提供の1280px幅縮小版を使用。日本の調査対象企業の写真ではありません。

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  1. House of Lim / Wikimedia Commons:食品工場の製造ラインで二人の作業者が菓子を扱う様子 ↗(新しいタブで開く)

    CC BY 2.0(ライセンス(新しいタブで開く))。Commons提供1280px幅の縮小版を無加工で保存。表示枠では一部を切り取り。確認日:2026.10.11

  2. Shadychiri / Wikimedia Commons:教育施設の作業場で作業者が工作機械に向かっている様子 ↗(新しいタブで開く)

    CC BY-SA 4.0(掲載画像にも適用)(ライセンス(新しいタブで開く))。Commons提供1280px幅の縮小版を無加工で保存。表示枠では一部を切り取り。確認日:2026.10.11

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