この記事の要点・目次
  • 越前和紙の使い心地は、原料だけでなく、漉き方・厚さ・乾燥・加工の組み合わせで変わります。
  • 流し漉きでは、ネリで繊維を水中に分散させ、簀の上に繊維を重ねて紙を作ります。
  • 手漉き・機械漉きという区分に加え、書く道具や印刷方法、必要な枚数に合うかを確認して選びます。

越前和紙は、植物の繊維をほぐして水に分散させ、漉き上げてから水分を抜き、乾燥させて作ります。福井県越前市を中心とする産地では、手漉きだけでなく機械漉きや紙の加工も行われています。

同じ「越前和紙」でも、便箋、版画用紙、襖紙では求める性質が違います。使い心地を知るには、産地名に加えて、原料・漉き方・仕上げを見る必要があります。産地の解説とメーカーの公開工程をたどり、紙を選ぶときの確認点まで整理します。

原料を選び、繊維をほぐすところから違いが始まる

越前和紙の代表的な原料は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などです。これらは木の幹全体を使うのではなく、皮に含まれる繊維を利用します。原料によって繊維の長さや細さが異なり、紙の性質にも違いが生まれます。

福井県和紙工業協同組合の原料解説と、伝統的工芸品産業振興協会が運営する青山スクエアの紹介を、用途と合わせて整理すると次のようになります。

原料 紙の性質につながる特徴 用途を考える手がかり
楮 比較的長い繊維が絡み合い、丈夫な紙になる 木版画用紙など。長い繊維を生かす原料処理も行う
三椏 楮より細く柔軟な繊維で、緻密な紙になる 書画や印刷、襖紙など
雁皮 平たい繊維から、光沢のある緻密な紙になる かな書道や銅版画など、細かな表現に使う

これは原料の特徴を整理したもので、完成した紙の性能表ではありません。同じ楮でも、厚さや配合、加工まで同じとは限りません。また、産地の解説には木材パルプを使う和紙も登場します。「和紙ならすべて楮100%」とは判断できません。

卯立(うだつ)の工芸館が紹介する伝統的な工程では、皮を煮てほぐれやすくし、水洗いしながら塵や傷んだ部分を取り除き、叩いて繊維をほぐします。最後の作業が「叩解(こうかい)」です。紙漉きの動きだけで一枚の質が決まるのではなく、その前に、繊維を使える状態へ整える仕事があります。

流し漉きでは「ネリ」が繊維を水中に散らす

流し漉きは、繊維を含む水を道具ですくい、揺り動かす操作を繰り返して紙にする方法です。このとき働くのが、トロロアオイの根などから採る粘液「ネリ」です。

柄杓ですくった粘りのあるネリが容器へ流れ落ちる様子
紙漉きに使うネリ。卯立の工芸館で2019年5月5日に撮影された写真です。繊維を水中に分散させる補助材の粘りが見えます。写真・画像:TR15336300101 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(掲載写真にも適用)

卯立の工芸館の解説では、ネリには、原料が早く沈むのを防ぎ、漉く道具の上に長くとどまるようにする働きがあります。繊維が一か所に固まらず水の中に散らばることが、厚さを整えて漉くための条件になるのです。

繊維を受けるすだれ状の道具を「簀(す)」、それを支える枠を「桁(けた)」といいます。流し漉きでは簀を備えた漉き桁を前後左右に動かし、すくう操作を重ねて厚みを作ります。水をすくって一度こすだけの作業ではありません。

ただし、すべての和紙が同じ漉き方ではありません。青山スクエアが示す伝統的工芸品・越前和紙の技術要件では、「局紙(きょくし)」という種類の紙は、金網を使いネリを加えない「溜め漉き」とされています。溜め漉きは、原料を一回すくい上げて揺り動かす方法です。ネリを使う流し漉きの説明を、越前和紙の全製品に当てはめないことが大切です。

漉いた後の水切りと乾燥も、紙を作る仕事

漉き桁の上に繊維の層ができても、そのまま使える紙にはなりません。水を含んだ紙を重ねて水分を絞り、一枚ずつ乾かす工程が続きます。

引き上げた漉き桁の簀の上に白い繊維の層が広がる様子
簀の上に広がった繊維の層。卯立の工芸館、2019年5月5日撮影。漉いた後にも、水を絞り、乾かす工程が続きます。乾燥工程を撮影した写真ではありません。写真・画像:TR15336300101 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(掲載写真にも適用)

濡れた紙を積むと、全部くっついてしまいそうにも見えます。福井県和紙工業協同組合のQ&Aは、ネリが働くことで、重ねた紙どうしの繊維が絡み合わず、一枚ずつ剥がせると説明しています。ネリの役割は、漉き槽の中だけで終わりません。

卯立の工芸館が紹介する方法では、重ねた紙を水切りし、徐々に圧力を加えて水分を絞ります。その後、一枚ずつ板に張り付けて乾かします。一方、青山スクエアの工程紹介には圧搾機が登場し、乾燥の技術要件には板張乾燥と鉄板乾燥の両方が示されています。

ここからわかるのは、「手漉き」と書いてあっても、前後の作業に使う設備まで一つに決まるわけではないということです。紙をすくう場面に加えて、どう水を抜き、どんな面に接して乾かすかも、完成までの工程として見る必要があります。

機械漉きと加工で、使い道に合わせた紙を作る

越前では機械を使う紙作りも行われています。具体例が、瀧株式会社のTAKIPAPERが公開する、金銀入り大礼紙の製造工程です。

同社の例では、パルプを水の中で調製し、装置でろ過して、土台となる紙の層「地紙」を作ります。その上に、金銀の細かな粒や長い繊維、ネリを混ぜたものをかけ、乾燥機へ送ります。完成してから模様を印刷するだけでなく、紙を作る途中に素材を加えて表情を出す方法です。

手漉きと機械漉きは、紙を形にする方法の違いです。それだけで、使われる原料も仕上がりも決まるわけではありません。福井県和紙工業協同組合の資料では、木材パルプは主に機械漉きに使われ、手漉きにも使われる場合があるとされています。原料名と製法は、分けて確認する情報です。

さらに紙を漉いた後にも、塗工や印刷、貼り合わせなどの加工があります。瀧株式会社は、紙の表面を処理する「どうさ」や、複数の印刷方法を紹介しています。同社の比較では、柔らかな和紙に黒い文字を刷る場合でも、印刷方法によって濃さや印象が変わります。

紙そのものの風合いを気に入っても、文字を載せた後の見え方まで同じとは限りません。名刺やラベルのために選ぶなら、紙の見本に加えて、使う印刷方法での仕上がりを見ることが判断につながります。

便箋・印刷・工作は、使う条件から選ぶ

越前和紙を選ぶときは、まず何に使いたいかを決め、その用途に合う紙かを確認します。以下は、原料と加工の違いを踏まえた編集部の確認項目です。

使い道 購入前に確認したいこと
手紙やカードを書く 使う筆記具で書けるか。にじみ、裏への抜け、表裏の書き味を見本で確認する
名刺や商品ラベルを印刷する 使用する印刷方法への適性、必要な厚さ・寸法・枚数、文字の仕上がりを確認する
箱に貼る・折って工作する 折りたい形に合う厚さか。貼る場合は接着剤と相手の素材を含めて試す

表裏にも、使い方の余地があります。福井県和紙工業協同組合は、一般には滑らかな側を表、粗い側を裏と呼ぶ一方、用途に応じて裏面を使うこともできると説明しています。風合いを楽しむ工作と、細い文字を読みやすく載せたい印刷では、確かめたいことが違います。

貼り合わせも、紙の名前だけでは決められません。瀧株式会社は、紙の吸水性や厚さによって貼りにくさが変わり、実際に貼ってみないとわからない場合があるとしています。購入した紙を一度に使い切る前に、端材や見本で相性を確かめる考え方が役立ちます。

「手漉きだからよい」で選び終えるより、何の繊維をどう紙にし、使う目的に合わせてどんな加工を加えたかを見る。その順にたどると、一枚の紙に含まれる仕事と、自分に必要な性質を結び付けられます。

産地の仕事と道具の使い心地のつながりは、熊野筆の作り方でも紹介しています。

出典・参考資料

  1. 福井県和紙工業協同組合 ECHIZEN WASHI「原料」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  2. 越前和紙の里 卯立の工芸館「和紙漉きの工程」(各工程の解説) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  3. 伝統的工芸品産業振興協会・青山スクエア「越前和紙」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  4. 瀧株式会社 TAKIPAPER「紙すき」金銀入り大礼紙の製造工程 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  5. 瀧株式会社 TAKIPAPER「よくあるご質問」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  6. 瀧株式会社 TAKIPAPER「どうさ」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  7. 福井県和紙工業協同組合「Q&A」紙の表裏・紙床から剥がれる理由 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  8. カバー写真の原典:TR15336300101「Japanese paper making 02」 ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07
  9. カバー写真の利用条件:CC BY-SA 4.0(掲載写真にも適用) ↗(新しいタブで開く)確認日:2026.10.07

画像の出典・利用条件

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カバー画像

卯立の工芸館での紙漉き(福井県越前市、2019年5月5日)。写真:TR15336300101/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0。原寸保存、配信時に縮小・形式変換。

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  1. TR15336300101 / Wikimedia Commons:柄杓ですくった粘りのあるネリが容器へ流れ落ちる様子 ↗(新しいタブで開く)

    CC BY-SA 4.0(掲載写真にも適用)(ライセンス(新しいタブで開く))。原寸JPEGを保存。配信時に縮小・形式変換。色補正・トリミングなし。確認日:2026.10.07

  2. TR15336300101 / Wikimedia Commons:引き上げた漉き桁の簀の上に白い繊維の層が広がる様子 ↗(新しいタブで開く)

    CC BY-SA 4.0(掲載写真にも適用)(ライセンス(新しいタブで開く))。原寸JPEGを保存。配信時に縮小・形式変換。色補正・トリミングなし。確認日:2026.10.07

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